読書日記

平成17年4月〜6月

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「黒曜石 3万年の旅」(堤隆・NHKブックス)

火山活動によって生成された天然ガラスである黒曜石は打ち欠くと鋭利な剥片となり、細石刃として、鏃や石斧、石匙などの利器として利用された。狩猟・採集をなりわいとする人々が、いかに黒曜石を求めてきたのか。遠い原石産地から山野を越えて、またあるものは海峡を超えていることがわかった。黒曜石のたどった道と人類の生活の軌跡をさぐる。(表紙カバー裏惹句)

昭和56年、千葉県佐倉市に新設された「国立歴史民俗博物館」に初めて行った時、当時としては珍しい遺跡や遺物をレプリカを使って現場を再現する展示技法に驚いた。これも新手法だった映像を使っての説明にも、新鮮な感銘を覚えた。
その一つが黒曜石の利器の展示と製作技法の映像だった。映像で丁寧に紹介されていたのが本書で紹介される「湧別技法」ということ、信州和田峠や北海道白滝はては伊豆諸島神津島産の黒曜石が交易され国内各地から出土している、ということを初めて知った。

本書は、中学生の頃畑で見つけた黒曜石にさそわれて考古学者になることを夢見た筆者が、「日本列島の先史人類の生命線を担ってきた3万年におよぶ使用の軌跡を追い、研究の今日をとらえ、黒曜石の中に後期旧石器時代から縄文時代にかけての人々の暮らしや社会・経済を垣間見よう」としたもの。

著者の研究史でもあり興味深い書である。 (4月22日(木))




「平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い」(板坂耀子・中公新書)

40年以上前、高校生時代、受験用古文の戦記物教材としての「平家物語」の一節を、琵琶法師が合戦の模様を目に浮かぶように語り継いできた耳に心地よく入ってくる言葉を、詠うように読んだ記憶がある。会社勤務となって、吉川英治作の「新・平家物語」(全12巻・朝日新聞社刊)を読んだ。原古文で全巻読み通すのは辛くて、当時ベストセラーを続けていた吉川版を通勤電車の行き帰りで読んだのだった。

現在、NHKがタッキー主演で大河ドラマ「義経」を放送している。これも40年近く昔、尾上菊之助・緒形拳主演版を見続けたが、それと比較してアイドル主演がなじめず見ていない。当時の年配者も菊之助が危なっかしくて見ていられなかったのだろうと想像するとおかしな気になるが。

さてそれはさておいて、本書は「この本を読めば『平家物語』について、当然知っておくべきこと」と同時に、「『平家物語』についてまだ誰も知らないこと」も覚えられずはずである、とはしがきに書いてある。

全体像は、「あらすじ」編として前半の三つの反乱「鹿の谷の変」「高倉宮謀反」「頼朝の旗上げ」、後半の三つの戦い「一の谷の合戦」「屋島の合戦戦」「壇ノ浦の合戦」にまとめ、図式編ては「清盛対重盛、宗森対知盛」「重盛像の魅力「武器のない戦い」「優等生の魅力とは」の表題で、誰も論じたことのない視点で論及されていく。

論文臭が少しに残っていて煩い部分もあるが、全体像を知るにはよい本だということでお勧めしておこう。(4月8日(木))





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