読書日記

平成16年10月〜12月

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「代官の日常生活 江戸の中間管理職」(西沢淳男・講談社選書メチエ)

「賄賂を受け取り、過重な年貢を強いる悪代官。しかし、それは代官の実像を伝えているのかーー。増長する下僚に悩まされ、地震、飢饉などの危機に東奔西走。知られざる代官の素顔を明らかにし、幕府体制の楚を築いた江戸の中間管理職の悲喜交々を描く。(本書表4惹句)

「越後屋、お主もなかなかの・・・ワルよのー・・・」。TV番組「水戸黄門」では、代官は家老とならんで二大悪役として登場する。このイメージは江戸時代初期100年あまりの、出世の望みもない、卑しい役職として身分も低いために、悪巧みをして処罰される者が絶えない時代の代官像であったという。一方で、江戸幕府の楚を築き、財政基盤を支えたのも代官であったという。江戸時代後期、年貢徴収を維持していくため、飢饉からの農民救済、農村復興に農政の重点が置かれていくようになる。そうしたなか、農民に心を砕き、手腕を発揮した代官も多数輩出した。

本書は、1200人あまりの歴代代官の経歴をまとめた著者が、現代の転勤族・中間管理職にも通ずる代官の実像を浮き彫りにし、イメージとして形づくられた「悪代官像」を変えよう、というものである。まさか水戸黄門流の悪代官ばかりがいたとは思ってはいなかったが、官官接待、賄賂、公共事業、食糧費、付け届け、情実人事、丸投げといった事象がこの時代にもあった「歴史は繰り返す」と語られると、まさに「へー」と感心するばかりであった。(12月30日(金))



「知られざる藤沢周平の真実 待つことは楽しかった」(福沢一郎・清流出版)

「藤沢作品というと、武家ものや歴史小説の評価が高いが、それより、市井ものにこそ、藤沢作品の本質があるのではないか。なぜなら「不変にある、男と女が織りなす人情」は、市井ものだから深く描くことができる、との思いがあり、あまり市井ものが取り上げられないことへの不満があった。そこで、藤沢周平という作家が、なぜ男女間の思い、人情を巧みに描けるようになったのかを探ろうとしたのが、本書を執筆する動機になった。」と、本書あとがきで著者が執筆動機を語っている。

この2月にとりあげた「藤沢周平 残日録」と同じアンソロジーではあるが、「待つ」というキーワードで藤沢もの、とくに市井ものの生まれた背景を概観しようというものだが、著者の意気込みが果たされたのかどうかは若干の疑問なしとしない。うまく紹介できないのが申し訳ありません。(読了したのは12月20日頃だったが、今2月20日と2ヶ月の歳月が記憶を薄れさせてしまっています)



「幻の漂白民・サンカ」(沖浦和光・文春文庫)

「一所不住、一畝不耕。山野河川で天幕暮し。竹細工や川魚漁を生業とし、'60年代に列島から姿を消した自由の民・サンカ。『定住・所有』の枠を軽々と超えた彼らは、原日本人の末裔なのか。中世から続く漂白民なのか。従来の虚構を解体し、聖と賎、浄と穢から<日本文化>の基層を見据える沖浦民俗学の新たな成果」(表紙カバー裏)

サンカは、山野河川で瀬降り生活を営んでいる「素性の分らぬ無宿者」であり、さらには「一般道徳が通用しない山の民である」−−そういった話が戦前では広く社会に流布されていた。これらは、根も葉もない世間の噂話にすぎず、その多くは戦前の三角寛の「山窩小説」によってバラまかれた虚像だった。

本書によって明らかにされたこと。
1.サンカと呼ばれた人々は、柳田国男が「山人」の末裔と証明しようとした遠い古代から連綿と続く異民族などではなく、近い時代に生み出された難民だったという説明。木地師・家船の民のような「由緒書」を持たないのも発生起原がそんなに時代を遡らないからだ、という。
2.大衆社会の流行小説とその読者の想像力が、サンカ幻想の形成に果たしたこと。三角は、「サンカの社会」という研究書を残して博士号までとるという、虚構の世界を生きていたのだという主張。
3.もう一つは、サンカを「山窩(山に潜む盗賊)」と表記した警察と人別帳から戸籍や住民登録につながる人間管理のテクノロジー(と、巻末の評者は言う)

何年か前、「瀬降り物語」という「山窩小説」を焼き直した怪しげな映画が上映されていたが、観ないでよかったと心底思ったことだった。(12月10日(金))



「社長を出せ!実録 クレームとの死闘」(川田茂雄・宝島社文庫)

「不思議なものでクレームは、逃げれば逃げるほど追いかけてくるのです。『クレームからは決してにげられない』というのが、私の実感です。『あなたじゃなくて社長を連れていらっしゃい』と何度いわれたことか。しかし、なんと言われようと、『ぜひ私とお話をさせてください』と頑張り品質向上に反映させてきました。結果は百戦百勝。自分で解決できなかったクレームは1件もありません。」(表紙カバー裏)

著者は大手カメラメーカーのサービスセンターで長年クレーム処理を担当してきた。本書はその間にあった実際の事例を紹介し、結果として上掲の「哲学」を得てどんなクレームも解決してきた、ノウハウを披瀝したもの。

5年前大手電機メーカーT社が、クレームの内容としてはごく普通の問題の対応を誤って、そのやりとり内容を記録・録音され、個人のホームページに載せられ、インターネットを通じて全世界の多くの人の耳目にさらされる結果になる「事件」があった。最後は副社長がテレビに出て謝る、という企業イメージ大きくダウンさせる結果になってしまった。
当時、私の所属していた部署の同じフロアには「お客様相談室」に相当する部署もあり、主に電話で応対しているさまが漏れ聞こえてくる状況にあった。著者も言っているが、直接会って話しを聞くことが問題解決の有力手段なのだが、お互いに顔が見えない電話でのやりとりはとかく誤解を生じやすい、という制約があり気をつかっている様子も窺えた。
「写真」はたった一度の出来事を記録する手段で、もしも製品の欠陥により記録に失敗すると重大クレームに発展するという特性があって、製品品質についてはことのほか注意するという業界特性があることはどなたもわかってもらえると思う。著者の主張するとおり、クレームは品質向上の絶好のチャンスであるのだ。とはいえ、直接クレームに対応する担当者の苦労は痛いほどわかる。

本書は2003年7月に刊行されているが、インターネット社会がいちだんと進行している現今だが「誠意」をもって対応するという基本は変わらないだろう。(12月6日(月))



「僕の叔父さん 網野善彦」(中澤新一・集英社新書)

「日本の歴史学に新たな視点を取り入れ、中世の意味を大きく転換させた偉大な歴史学者・網野善彦が逝った。数多くの追悼文が書かれたが、本書の著者ほどその任にふさわしい者はいない。なぜなら網野が中澤の叔父(父の妹の夫)であり、このふたりは著者の幼い頃から濃密な時間を共有してきたからだ。それは学問であり、人生であり、ついには友情でもあった。切ないほどの愛を込めて綴る「僕と叔父さん」の物語。(表紙カバー裏)

著者5歳の時「叔父-甥」の関係になった二人には、人類学で言うところの「冗談関係」(権威の押しつけや義務や強制が発生しにくい、精神の自由なつながりの中から重要な価値の伝達がしばしば起こる、という)が形成される。その関係が網野の死まで続いたという。
本書は、網野の学説・歴史理論が形成される過程で著者・その父との思想の交流がいかに大きな影響をしたかが、その初期の著作「蒙古襲来」「無縁・公界・楽」「異形の王権」が書き上げられる過程に投影されているさまを描くことで紹介されていく。

一つ印象深く読んだのは、飛礫(ひれき、石つぶて)の研究だった。
学生運動華やかなりし頃、学生が機動隊に向かって投石するシーンを見て、著者の父が子供の頃に「笛吹川を挟んで隣村の子供たちと投石合戦をした」思い出を語ったことから始まる。「権力に向かって礫を飛ばす」ことが、中世「悪党」が飛礫を飛ばして相手をひるませてから飛び出していったことを想起させ、さらに飛礫が石合戦という民間習俗と同じ根源から出ていること、すると中世の「悪党」そのものも人類の原始に根ざしている、という思想を展開させることになる。
「人類の原始」という気づきをきっかけに、飛礫、博打、道祖神と議論が展開して大地を生きる「民衆」の概念にと発展していき、いわゆる「網野史学」が生まれ発展していくことになる。

「哲学者」中沢の叔父を思う心が本書いっぱいに溢れているこの書は、これからの網野論に欠かせない一書になることだろう。(11月27日(土))



「超火山『槍・穂高』」(原山智+山本明・山と渓谷社)

●深さ3000mの巨大なカルデラが造った日本を代表する名山とは。●ピサの斜塔並みに傾いた、誰もが知っている山の名は。
●梓川に失われた清流伝説あり。●本来ならば「崩壊」している大地の牙、剱岳の不思議。
●その気になって探せば北アルプスから恐竜の化石が出る・・・・・・

北アルプスはいくつもの地質ミステリーを秘める迷宮だ。
本書は槍・穂高連峰を中心に、剱岳、白馬岳、薬師岳、鹿島槍ヶ岳といった北アルプスのスターたちの「出生の秘密」を次々に明らかにしていく。

北アルプスの地質学はここ20年ほどで劇的に進歩した、という。その中心をになったのが本書の主役、原山智信州大学教授である。本書は長年の友人であるライター山本がワトソン役を努め、「地質探偵」原山が上に掲げた謎を解明してきた最新の地質学の成果を見せてくれる。

地球の歴史に流れる100万年の時間をいっときの流れに見せて解明していく、北アルプスの生成の秘密・歴史を明らかにする本書は「地質学のおもしろさ」を、いまどきの表現で言えば「鳥肌がたつ」ほど痛感させてくれる。高校・大学時代「地学部」に名前だけの部員として在籍した身には、こういう学者生活を送れていたらそれもおもしろかっただろうな、と思わせてくれた2日間だった。(11月12日(金))



「知財戦争」(三宅伸吾・新潮新書)

青色発光ダイオード、医療技術特許、CGアニメ、「浜崎あゆみ」・・・・・・。
特許や著作権などの知的財産権は、うまく活用すれば莫大な富を生み出す。先進国のビジネスはもはや、知的財産権を抜きにしては語れなくなった。知財ビジネス、知財振興政策の大競争時代に、世界はどう動き、日本はどう対処しようとしているのだろうか--。「見えない戦争」の最前線をレポートする。(表紙カバー惹句)

「遺伝子スパイ事件--さらけ出された無防備な日本」、「闘争の現場」、「世界の知財政策」、「発明者 vs. 企業」、「思い出の事件を裁く最高裁」、「知財を担う人々」、「知財立国・日本への壁」。この章立てで推測できるように、本書は日本の知財を取り巻く状況を俯瞰して見せてくれる概説書です。

本書の中で論じられる、人材の流動性が高まった日本企業での発明者の処遇の難しさ、特許を取って利益を確保するか・クロスライセンス戦略をとるか・ノウハウとして技術を外に明かさない戦略を取るか。技術に生きる会社の一員であった私には、企業の知財戦略の難しさはよく判る。

著者は日本経済新聞の産業部、経済部、政治部での取材を通じて「知的財産分野」をライフワークとしている記者。
三宅記者は、私の古巣の会社が米国企業の理不尽な攻撃を受け跳ね返した時に、粘り強い取材をかけてきた馴染みの記者。よく勉強していた記者だったが、このような概説書を世に問うたことを祝福したい。(11月10日(水))



「パラサイト社会のゆくえ データで読み解く日本の家族」(山田昌弘・ちくま新書)

親に基本的生活を依存する独身者を「パラサイト・シングル」と呼び始めてから、七年あまりがすぎた。この言葉はすっかり定着したが、実はこの間にパラサイトたちは密かに変容していた!かつては「本当は自立できるのにリッチな生活をしたいから」パラサイトしたのだが、現在では「正社員にもなれず、自立したくても自立できない」貧乏パラサイトたちが主流となっているのだ。この90年代後半のパラサイトたちの変容の背景には、日本社会の地殻変動がある。自殺者数の増加、離婚率の高まり、青少年犯罪の増加などさまざまなデータ・現象を手がかりに、日本の家族のゆくえを多面的に分析する。(表紙カバー惹句)

動機が理解しにくい少年犯罪、非行から始まって、子どもを無目的に誘拐するおとな、援助交際、未成年を対象とした性犯罪など目につきやすい「行動」はもちろん、10万人を超える不登校生徒、100万人と推定される「ひきこもり」、学校以外で全く勉強しない子どもの増加など目につきにくい部分でも「問題行動」が広がっている。前掲の離婚率、できちゃった婚、DV、ストーカー、児童虐待、わけのわからない犯罪もこの時期に急増し、少年以上に「おとな」の不可解な行動、犯罪が目立つようになってきたことも例として挙げられている。このような青少年を取り巻く社会の変容を、著者は1998年自殺者が突然1万人増え3万人を超えたことに象徴される社会全体のあり方が根本的に変わってしまった、と分析している。

これらの社会変容の原因を、@経済状況が不安定化したことによって「社会に絶望する人」が増えたこと、および、A社会のインフラが変化したことによって、「社会に絶望する人を容易に問題行動に走らせる手段」が手に入れやすくなったこと、としている。ひらたく言えば、やけになっている人が増えている、という。

「拙速を恐れて精緻に分析している間に、社会は一層変容の度を早めてしまう」からと多くの事例を挙げて分析してくれる。わかりやすさ、でいえばよくわかる論旨である。(10月29日(金))



「テレビの嘘を見破る」(今野勉・新潮新書)

初日に釣れたのに、最終日に釣れたとして盛り上げる釣り番組。新郎新婦はにせ者、村人が総出で演技する山あいの村の婚礼シーン。養蚕農家の生活苦を、擬似家族が訴えたドキュメンタリー作品--。視聴者を引きつけようと作り手が繰り出す、見せるための演出。やむを得ない工夫、いったいどこまでが事実で、どこからが虚構なのか?さまざまな嘘の実例を繙くことで明らかになる、テレビ的「事実」のつくられ方!(表紙カバー惹句)

著者はTBS・テレビマンユニオンで「遠くへ行きたい」など多数のドキュメンタリーを手掛けた、このテーマについて発言するにふさわしい人であるようだ。1993年、NHK番組「奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン」の「やらせ」がおおきな社会問題として論じられた。本書では、9つの「やらせ」の事例を手がかりに、読者の関心を引き込ませながら、「再現」の問題・ドキュメンタリーとフィクションの境界線を考えていく。

会社員時代、ドキュメンタリー番組の取材要請に応じて撮影現場に立ち会った経験が何度かある。ごくわずかな経験でも、テレビの裏側を見せてもらった、という覚えがある。制作側の常識と、見る側の思い込み、とがぶつかり倫理問題まで発展する「やらせ」のあり方を考えさせてくれる、わかりやすく書かれた本だが中身は結構重い問題を扱った書である。(10月26日(火))



「トヨタはいかにして「最強の車」をつくったか」(片山修・小学館文庫)

トヨタ自動車の強さについては、学問的に解析した書「能力構築競争 日本の自動車産業はなぜ強いのか」(藤本隆宏・中公新書)を、昨年7月に紹介した。本書では、「カローラ」の開発に従事した社員へのインタビューで、より人間に密着した形で、トヨタの強さを解明してくれる。

エクステリアデザイン、カラーデザイン、ボディ設計、ブレーキ設計、シート設計、新車進行管理、CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)、操縦安定性設計、などいろいろな技術部門から集まったメンバーを纏めるチーフエンジニア。これら開発スタッフの中心となるチーフエンジニアが、トヨタ独特の「主査制度」と呼ばれる仕組みでプロジェクトを進めていく。現・9代目カローラの開発に携わった技術者・デザイナー、そしてカローラ歴代のチーフエンジニア、張富士夫社長まで総勢21名がその開発経験を語る。

著者は巻末で、「日本の製造業に求められるのは、競争に勝ち抜ける人づくりに力を注ぐとともに、人が最大限の力を発揮できる場をつくることだ。人づくりを怠れば、技術の伝承の機械も失われる。私は、「カローラ」という"場"が人づくりに重要な役割を果たし、今日のトヨタの強さの一端をになっていると思う。「カローラ」という"場"で、従業員一人ひとりが共通の目的のもとに問題解決にあたってきたことがトヨタの強さをつくりだしてきた。」という。

私も昨年7月、運転免許を取り、カローラに乗るようになった。歴代カローラにいかに多くのトヨタ社員の篤い思いが注がれてきたのかを知り、心して乗っていきたいものと思っている。(10月20日(水))



「救命センター当直日誌」(浜辺祐一・集英社文庫)

東京下町にある都立墨東病院救命救急センター。運ばれて来るのは、酔っぱらい、自殺未遂、クモ膜下出血、交通事故などで生死の際の患者達--。最先端の医療現場では、救命だけが仕事ではない。助かる見込みのない患者を、いかにその人らしく安らかに逝かせてあげるか、それもセンターの医者の役割なのだ。危機に瀕した患者をめぐる医療の建前と現実を知り尽くした医者が描く、緊迫のヒューマン・ドキュメント。(表紙裏惹句)

前著「救命センターからの手紙」で「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞した著者のシリーズ第三作。軽快な文体、臨場感、医療最前線の生きた情報、そして、患者の立場を重んじる姿勢。本シリーズを貫く著者の姿勢は、「(病院での日々のできごとを書くのは)私にとって、病理解剖のようなものかもしれない。自分自身を反省する場、自分はここで何をしているのか、何のために医者をやっているのか、いわば自分のアイデンティティを確認するという作業なんだろうと思う」という言葉に示されている。

本書では、救命センターがいかにすさまじいところで、瞬時の判断が患者の生死を左右する場所であるかが、圧倒的迫力で示される。アメリカの人気TV番組「ER(緊急救命室)」と似た機能をもったセンターを拡充しようという東京都知事の構想があったことも紹介されている。背後にある医療事情、法制度の違いがあるのであのようなシーンがそのまま日本で展開されるのではないだろうが、このような救命センターが沢山あって患者がいっぱいいるというのも怖い世界だろう。(10月16日(土))



「ヒエログリフを愉しむ--古代エジプト聖刻文字の世界」(近藤二郎・集英社新書)

ヒエログリフをご存じですか?あの絵文字が縦や横に並んで、ピラミッドや石版にきざまれた様はよく知られています。でも、あの文字が表意文字ではなく、表音文字だということを知っている人がどれだけいるでしょうか?かく言う私も、何となく表意文字だと思い込んでいました。

著者は、あのエジプト学者・吉村作治教授のいる早稲田大学のエジプト学研究所所長で、30年近くのエジプト調査の中で自らヒエログリフの記された資料を数多く発掘し、古代エジプトの歴史を実践的に学んできた。また、エジプトの遺跡を毎年のように訪れ、世界各国のエジプト学者との交流から、エジプトガクの最先端の情報も得てきたという。本書は、著者のそうしたエピソードを交えながら、ヒエログリフを取り巻く世界の面白さ、魅力を書きしるしている。

ナポレオン率いるフランス遠征軍が発見したロゼッタストーンに、ギリシャ文字と併記されていたヒエログリフを解読したシャンポリオン。その後、エジプト各地から発掘・出土したパレット、ピラミッド、石碑、彫像、パピルス、落書き、石片、亜麻布、石材、オベリスク、木棺、粘土板、厨子、壁画、ワイン壺、素焼きの葬送用コーン、などさまざまな素材に書き込まれたヒエログリフを解読することで判明した、エジプトの歴史や社会を描き出してくれる。

本書により、体系的にとはいえないが、エジプトの古代がおぼろげながら浮かび上がってきた感がする。(10月6日(水))



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